電気工事でよく使うあと施工アンカーボルト。
大きく分けると「ケミカルアンカー」と「金属系アンカー」の2種類があります。
さらに細かく分類すると
ケミカルアンカーは、下記の3種類です。
- ARケミカルセッターAP(撹拌式)
- ARケミカルセッターMU(打ち込み式で撹拌不要)
- HIT-HY 200-A (注入式)
金属系アンカーはこちらの4種類になります。
- 【オールアンカー】芯棒打ち込み式
- 【ホークアンカー・ボルトアンカー】スリーブ打ち込み式
- 【メス(グリップ)アンカー】本体打ち込み式
- 【ウェッジ・アンカー】ウェッジ式締付方式
アンカーにはたくさんの種類があり、使用する場所や用途によって適したアンカーを選ぶ必要があります。
コンクリートの中は不可視部だから、施工時に注意すべきことも多いよ。
この記事を読めば、最近現場を任せられた方もアンカーの知識が増えて、自信をもって工事できるようになります。
アンカーボルトの種類、下穴、用途の一覧表
あと施工アンカーは、ケミカルアンカーと金属系アンカーの2種類があります。
その中でも、施工方法や用途によってさらにいくつかの種類に分けられます。
ここでは、それぞれのアンカーを一覧にまとめて紹介するね!
ケミカルアンカーの一覧表
種類 | ARケミカルセッター AP(撹拌式) | ARケミカルセッター MU(打ち込み式で撹拌不要) | HIT-HY 200-A (注入式) |
用途 | 設備機器・支持金具の取付/ガードレール・標識板の取付/橋脚補強/水中工事/耐震補強等 | 機器取付け/アンテナ取付け/U字筋・L字筋/増改築用差筋/車止め等 | 耐震工事における差筋/スチール製柱、梁などの留付け/階段、スチール製手すり板などの取付 |
品番・アンカー径 / キリの太さ(mm) | AP-8 / 9.0 AP-10 / 12.0 AP-12 / 14.5 AP-16 / 19.0 AP-20 / 24.0 | MU-8 / 9.5 MU-10 / 12.0 MU-12 / 15.0 MU-16 / 19 MU-20(M20) / 23 | M8 / 10 M10 / 12 M12 / 14 M16 / 18 M20 / 22 |
金属系アンカーの一覧表
種類 | 【オールアンカー】 芯棒打ち込み式 | 【ホークアンカー・ボルトアンカー】 スリーブ打ち込み式 | 【メス(グリップ)アンカー】 本体打ち込み式 | 【ウェッジ・アンカー】 ウェッジ式締付方式 |
用途 | 手摺取付け/フェンス支柱固定/ブラケット固定/ 設備架台取付け/ラック固定等 | 防音壁取付け/競技場ベンチ固定/外壁石張工事/ 設備機器設置/看板取付け等 | 配管吊り金具取付け/軽天工事/空調ダクト取付け/ケーブルラック吊り/足場取付け等 | 大型機器用架台/アングルブラケットの設置/建築物天井の空調・ダクト/給排水工事/内装工事等 |
アンカー径 / キリの太さ(mm) | M6 / 6.4 M8 / 8.5 M10 / 10.5 M12 / 12.7 M16 / 17.0 M20 / 21.5 | M6 / 10.0~11.0M8 / 12.5 M10 / 14.5 M12 / 18.0 M16 / 22.0 M20 / 26.0~26.5 | M6 / 11.0 M8 / 12.5 M10 / 14.5 M12 / 18.0 M16 / 22.0 M20 / 26.0 | M8 / 8.0 M10 / 10.0 M12 / 12.0 M16 / 16.0 M20 / 20.0 |
ケミカルアンカーの種類
ケミカルアンカーは樹脂を使用して躯体に固定する接着アンカーです。
ケミカルアンカーは施工方法によって
- 攪拌式
- 打込み式
- 注入式
の3種類に分けられます。
ケミカルアンカーという呼び名が一般に浸透していますが、これは日本デコラックス社の商品名です。
正式には接着系アンカーですが、この記事ではケミカルアンカーと呼びます。
旭化成:ARケミカルセッターAP(撹拌式)
施工方法
画像引用:旭化成HP
ARケミカルセッターAPはケミカルアンカーの代表的な製品です。
攪拌式(回転・打撃型)は、アンカー筋を回転または回転打撃し、カプセルを破砕・混合しながら埋め込みます。
特徴はこちらです。
- 耐アルカリ性に優れている
- 初期剛性が高く、靭性に優れる
- 目的に応じたサイズ選定が可能(スタンダード・ショート・ロング)
- 壁面、天井面にも施工可能
用途は下記になります。
- 設備機器・支持金具の取付
- ガードレール・標識板の取付
- 橋脚補強
- 水中工事
- 耐震補強 等
旭化成:ARケミカルセッターMU(打ち込み式で撹拌不要)
施工方法
画像引用:旭化成HP
ARケミカルセッターMUは叩き込みタイプのカプセルアンカーです。
打ち込むだけで樹脂と硬化剤が確実に混合されるので、攪拌式と比べて施工が簡単です。
特徴は、
- ハンマーで叩き込むだけで施工完了。(ハンマードリルによる撹拌作業不要)
- 攪拌が不要なので、L字筋/U字筋の施工が可能
- 使用するボルト・異形棒鋼は寸切りでOK
- 壁面、天井にも施工可能
用途は下記です。
- 機器取付け
- アンテナ取付け
- U字筋・L字筋
- 増改築用差筋
- 車止め 等
ヒルティ:HIT-HY 200-A (注入式)
施工方法
画像引用:ヒルティHP、ヒルティ製品カタログ
HIT-HY 200-Aは穿孔した穴に接着剤を注入し、アンカーを固定させる注入式アンカーです。
主剤と硬化剤が入ったフォイルパックを使用しますが、専用のミキシングノズルによって攪拌されるので、安全で確実な施工が可能です。
特徴はこちら!
- 速乾性が高い
- 温度範囲 -10℃ ~ +40℃と、幅広い作業環境に対応
- 寸切アンカー筋が使用でき、全サイズの対応が可能
- 壁面、天井面にも施工可能
用途!
- 耐震工事における差筋
- スチール製柱、梁などの留付け
- 階段、スチール製手すり板などの取付 等
金属系アンカーの種類
金属系アンカーはアンカーを打ち込む、または締め付けることで先端を拡張させ、機械的に固定するアンカーです。
金属系アンカーは施工方法によって4種類に分けられます。
- 【オールアンカー】芯棒打ち込み式
- 【ホークアンカー・ボルトアンカー】スリーブ打ち込み式
- 【メス(グリップ)アンカー】本体打ち込み式
- 【ウェッジ・アンカー】ウェッジ式締付方式
以下でそれぞれの特徴を解説します。
【オールアンカー】芯棒打ち込み式
施工方法
画像引用:サンコーテクノHP
芯棒打ち込み式はピンをハンマーで打ち込むだけなので、簡単に施工することができます。
施工完了はピンを見ればわかるので、目視で確認可能です。
最も一般的なアンカーで、町の自動販売機をはじめ、多くの用途で使用されています。
その他の用途はこちらです。
- フェンス支柱固定
- ブラケット固定
- 設計架台取り付け
- 手すり取付
- ラック固定 等
【ホークアンカー・ボルトアンカー】スリーブ打ち込み式
施工方法
画像引用:サンコーテクノHP
スリーブ打ち込み式はアンカー打ち込み後、ナットを締め付けることで躯体に固定させます。
強度にバラツキが少なく安定した施工が可能なので、多くの用途で使用されます。
用途はこちらです。
- 設備機器設置
- 防音壁取付け
- 外壁石張工事
- 看板取付け 等
【メス(グリップ)アンカー】本体打ち込み式
施工方法
画像引用:サンコーテクノHP
本体打ち込み式は、あと施工アンカーのめねじタイプです。
施工後はコンクリート面と面一なので、機材等の妨げになりません。
使用するボルトを六角ボルトとするか、寸切ボルトにするかを選定できます。
- 配管吊り金具取付け
- 軽天工事
- 空調ダクト取付け
- ケーブルラック吊り
- 足場取付け 等
【ウェッジ・アンカー】ウェッジ式締付方式
施工方法
画像引用:サンコーテクノHP
ウェッジ式締付方式は、トルクレンチで既定のトルク値まで締め付けて固定させます。
引張力に追従して先端部が拡張するため、安定した強度を確保できます。
長ナットタイプもあるため、天井に懸垂物を取り付ける場合に最適です。
- キュービクルなどの大型機器用架台
- アングルブラケットの設置
- 建築物天井の空調・ダクト
- 給排水工事
- 内装工事 等
ボルトの種類と用途
よく現場で使われるボルトの種類として、一般的な鉄(SS400)とステンレス(SS400)の2種類があります。
それぞれの特徴を表にしました。
材質 | 特徴 | 金額 |
鉄(SS400) | 最も一般的な素材 | 安価 |
ステンレス(SUS304) | 耐食性に優れる(錆びに強い) | 高価 |
以下でもう少し詳しく解説します。
鉄(SS400)を使用場所
SS400は一般構造用圧延鋼材と呼ばれるSS材(Steel Structure)の一種です。
安価で手に入れることができて、
- 建築物
- 土木構造物
- 船
など様々な用途で使われるとても汎用性の高い材料で、安価で手に入ります。
その反面、錆びやすいため屋外で使用する際は、
- 錆止め塗装をする
- 溶融亜鉛メッキ加工をする
といった対策が必要となります。
通常アンカーボルトで使用されるアンカー筋(ボルト)は電気メッキ(ユニクロ)処理されています。
ステンレス(SUS304)の使用場所
ステンレス(SUS304)は耐食性に優れた鋼材です。
ステンレスには、
- 耐食性に優れる=錆びに強い
- 耐熱性、耐寒性に優れる
- 装飾用として使える
などのメリットがあります。
このような特徴を持つため、
- 屋外
- 海岸沿い
- 装飾用
などの用途でよく使われます。
デメリットは、
- 一般的な鉄(SS400)と比べて高価
- ねじ山がくってしまう(潰れてしまう)ことがある
注意点として、ステンレスは錆びに強いという性質がありますが、絶対に錆びないというわけではありません。
- 表面に傷がつく
- 錆びている金属に長時間触れる
このような状況が続くと錆びることがあるので注意しましょう。
あと施工アンカーの選定フロー
ここまであと施工アンカーの種類を紹介してきました。以下でアンカーの選定フローを紹介します。
耐熱・耐火性が必要な場合→ケミカルアンカー
比較的軽量な機械やラック→金属系アンカー
振動機械の固定、人が乗る架台→ケミカルセッター
コンクリートのスラブ厚が薄い場合→金属系アンカー
ケミカルアンカーは既定の穿孔深さが深いため、使用する場合はスラブや壁の厚さをよく確認しましょう。
取り付け物の上から直接施工したい場合→芯棒打ち込み式アンカー
早期に耐力確保が必要なら→金属系アンカー
早期に耐力確保が必要で、接着系アンカーを使用する場合→注入式アンカー
あと施工アンカー・ボルトのよくある質問
あと施工アンカーは電気工事でよく使用しますが、施工前に考えるべきことがたくさんあります。
「機器が固定できればいい」と何も考えずに施工すると、思わぬ失敗をしてしまうことも。
以下によくある質問をまとめたので、確認してみましょう。
耐震計算はした方がいいですか?
あと施工アンカーにも耐震計算は必要です。
アンカーの強度は、下記のによって決定します。
- アンカーの種類
- ボルト径
- 埋め込み長さ
- コンクリート躯体の強度
あと施工アンカーを使用する際は、監理者や構造担当者に確認したうえで施工するようにしましょう。
既設のアンカーを使ってもいいですか?
アンカー引き抜き試験を行うことで既設アンカーの強度を確認できます。強度に問題がなければ、既設アンカーの利用は可能です。
現場によっては元々設置していたものより重いものや、振動機器を設置することがあります。
その場合は改めて構造計算を行い、既存アンカーの強度で問題ないことを確認しましょう。
あと施工アンカー作業に資格は必要ですか?
JCAA(一般社団法人 日本建築あと施工アンカー協会)が提供している民間資格があります。
この資格は国家資格ではないため、アンカー作業は資格がなくとも施工は可能です。
資格を取るメリットとして、
- 資格を取得することで、安全でより確実な作業が可能となる
- 資格が必要な現場もあるため、できる仕事が増える
- お客様からの信頼が増す
があるため、取っておくことをオススメします。。
資格区分 | 施工範囲 |
第2種あと施工アンカー施工士 | M12以下、D13以下 |
特2種あと施工アンカー施工士 | M22以下、D22以下 |
第1種あと施工アンカー施工士 | 制限なし |
あと施工アンカー技術管理士 | 施工計画、施工図の作成、施工管理等(施工はできない) |
あと施工アンカー主任技士 | 第1種あと施工アンカー施工士、あと施工アンカー技術管理士の両資格所有者 |
出典:https://www.anchor-jcaa.or.jp/license/qualification.html
注入式施工士について
2021年度より「接着系注入方式カートリッジ型あと施工アンカー施工士(略称:注入式施工士)」という新しい資格ができました。
その名の通り、接着系あと施工アンカー注入方式を安全・確実に施工するためにできた資格です。現場で必要となる方は確認しておきましょう。
アンカー打設前に埋設探査は必要ですか?
埋設探査なしでコンクリートを穿孔した場合、鉄筋にあたってしまうことがあります。
鉄筋だけでなく設備や電機の埋設管が埋まっている場合もあり、損傷してしまうと大変です。これを避けるために、埋設探査はやっておいた方がいいです。
- 作業の順番
- 仮に墨だし
- 埋設探査
- 本設墨だし
- アンカー打設
アンカーの打設前に実施して、鉄筋や埋設配管の有無を確認しましょう。
鉄筋にあたりましたが無理やり作業していいですか?
基本的に、むりやり施工してしまうのはダメです。
改修工事では、鉄筋にあたることはよくあります。
鉄筋コンクリートは、コンクリートが圧縮力、鉄筋が引張力を負担することで成り立っています。どちらが欠けてもダメな構造です。
もし穿孔時に鉄筋にあたった場合は、
- アンカーを打込む位置を変更する
- 15°以内の傾斜を付けて打込む(アンカーの種類による。カタログを必ず確認)
以上のような対応が必要となります。
間違っても
- 鉄筋を切る
- 埋込み深さが足りないけどそのまま施工する
なんてことはやらないようにしましょう。
強度に関係ない鉄筋であれば切断も可能です。
改修工事でのトラブルはつきもの。鉄筋にあたった場合は、設計責任者や現場監督と十分協議しましょう。
まとめ:コンクリートへのアンカー打設もこれでOK!
あと施工アンカーについてまとめました。大きく分けると「ケミカルアンカー」と「金属系アンカー」の2種類です。
さらに細かく分類すると
ケミカルアンカー
- ARケミカルセッターAP(撹拌式)
- ARケミカルセッターMU(打ち込み式で撹拌不要)
- HIT-HY 200-A (注入式)
金属系アンカー
- 【オールアンカー】芯棒打ち込み式
- 【ホークアンカー・ボルトアンカー】スリーブ打ち込み式
- 【メス(グリップ)アンカー】本体打ち込み式
- 【ウェッジ・アンカー】ウェッジ式締付方式
アンカー自体の知識も大切ですが、施工前に現場の確認を忘れないようにしましょう。
- どこに打つのか
- なにを固定するのか
- 既存コンクリートの状態は?
これらを確認しておけば、現場でスムーズに動けるよ。
ここまで読んで、あと施工アンカーに関する知識が増えたと思います。
しかし、これだけの内容を一度ですべて頭に入れるのは難しいです。
何度もみて覚える必要があるのでブックマークして何度も読みに来てくださいね!